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2016年米国大統領予備選 大手メディアVS独立系/ソーシャルメディアの闘い


ドナルド・トランプとヒラリー・クリントンという、「米国史上もっとも嫌われている大統領候補」と呼ばれる二人が、共和・民主各党の候補になりそうな、2016年の米大統領予備選挙(この記事執筆の6月20日時点)。多くの市民が「なぜこんな事態になったのかわからない」と、首を傾げている。トランプとヒラリーが新聞やテレビの見出しを賑わす陰で、草の根運動により地道に勢力を拡大し、民主党予備選でヒラリーと互角の票を得たのがバーニー・サンダースだ。大手メディアがほとんど無視するバーニーを支えたのは、独立系メディアとソーシャルメディアだった。大手メディアと独立系メディアの対立構図がくっきり浮き上がった選挙戦を、振り返る。

注記:この記事では、米国での一般的呼称に従って、各候補をトランプ、ヒラリー、バーニーと表記します。

大手メディアが叩けば叩くほど

トランプ人気が上昇

「なぜトランプみたいな人が大統領候補に?」日本でもよく聞かれる疑問だ。トランプの抜け目ない話題作りと大手メディアによる過剰報道が、大きな要因のひとつであることは間違いない。

当初からメディアはトランプを「共和党の冗談候補」と決めつけ、叩きに走った。「イスラム教徒の入国を禁止する」「メキシコとの国境に壁を巡らす。その費用はメキシコに払わせる」など、突拍子もない発言をする度に大騒ぎして批判したが、これがトランプにとって無料宣伝となった。

調査サイトCandidate Television Trackerによると、2015~16年に全国ニュースネットワーク9局で各候補が言及された回数は、トランプが671,693回、ヒラリーが320,927回、バーニーが166,964回で、トランプが全共和党候補の57.9%、ヒラリーが全民主党候補の64.5%を占めている。

そもそもトランプ支持者は保守派が多いので、リベラルなインテリを装う大手メディアにあまり好感を抱 いていない。またトランプの発言内容には必ずしも同意しなくとも、ポリティカル・コレクトネスなどお構 いなしの悪舌強弁に魅力を感じてしまうようだ。「報道の内容はいいに越したことはないが、悪くても報道されないよりはまし。論争は売れる」と、トランプ自身が著書に書いていた通りになった。

独立系メディアとソーシャルメディアが盛り上げた、

バーニーの草の根運動

トランプが234分、バーニーは10分。これは2015 年1月〜11月の11カ月間に、CBS、NBC、ABCの三大テレビ局が報道した合計時間だ(RT調べ)。大手メディアはバーニーを「米国が受け入れるわけがない社会民主主義の泡沫候補」と見なして、まともに取り上げなかった。これはつまり、「金権まみれの政治を変える」「富裕層上位0.1%が90%の国民と同じ富をもつ格差を是正する」「国民皆保険を実現する」などのバーニーの政策も報道されなかったということだ。

にも関わらずバーニーは草の根運動によりぐんぐん支持率を上げ、予備選では22州で勝利し、ヒラリーを脅かす存在となった。バーニーを支えたのは、インターネットを中心とする独立系メディアとソーシャルメディアだ。そのため、ネットを積極的に活用する層の支持が強く、ヒラリーと比較すると、特に45歳以下から8割近い支持を得ている。反対にヒラリーは、45歳以上から5割以上の支持を得ている(2月Quinnipiac Poll調べ)。

2011年に始まった「ウォール街を占拠せよ」、 2012年に始まった「モンサントを占拠せよ」など、 ここ数年世界各地で、経済格差やグローバル企業による市場寡占・環境破壊への反対運動が広まってきた。「大企業に支配される政治を改革しよう」というバーニーの立候補は非常にタイムリーであり、国民の共感を得た。

その結果、国民2400万人から7600万口・2億 2200万ドル以上の寄付が寄せられた(一口あたり平均額27ドル)。大企業やビリオネラーの巨額献金者に頼らなくとも大型選挙運動を成功させられることを証明した、前代未聞の候補者となった。

全国的には無名だった候補が草の根の力でここまで有力になったことこそ、ニュースとして価値あることだ。だがそれを詳しく特集したのは、独立系メディアのみだったといっていい。筆者はカリフォルニア州サクラメントの集会に行ってみたが、入場まで3時間並び、2万人以上が集まったスタジアムは大変な熱気だった。支持者たちは「こんなに人が集まっても大手メディアは報道しない」というコメントとともに、Twitter、Facebook、YouTubeなどを使って、画像や映像を拡散した。また選挙戦の報道を通じて、独立系メディアでブレない主張を続けてきたジャーナリストや学者、政治家への信頼が強まった。

エスタブリッシュメントの象徴、ヒラリーのために

大手メディアがしたこと

1月30日、 米国でも最も権威あるNew York Times紙が、ヒラリーを民主党候補として認めると発表した。ご存知のようにヒラリーは公務に個人メールサーバを使用した件で、FBIの犯罪捜査を受けている最中だ。過去にもスキャンダルが多く、政策や発言も一貫しない。金融機関や戦争ビジネスとの関わりも疑われており、国民の不信感は強い(3月のブルームバーグの調査によれば、バーニーとヒラリーの信頼度はそれぞれ64%、25%)。ネガティブな報道は少なくないが、真相に迫るような調査報道は不十分である。

予備選終盤、二人の候補が拮抗する中、カリフォルニア州に注目が集まっていた。米国最大の同州では新しい投票者を取り込んだバーニーが優勢で勝利が予想されており、一発逆転の可能性が指摘されていた。

その加州投票前夜の6月6日、APが突如「ヒラリー候補者確定」を報道し、他の大手メディアがそれに続いた。APは報道の理由を「数人の特別代議士がヒラリーを支持するという新たな情報を得たので」と説明したが、十分とは言えない根拠だった。「重要な投票日前夜に‘レースはもう終わった’と告げて、投票率を下げるための工作だ」と批判が集まった。

政府や企業の影響を受けない独立系メディアは、大手メディアの偏向報道の理由として、The Big Sixと呼ばれる6大企業が米国の9割のメディアを支配していることをあげる。例えばCNNを所有するタイムワーナー社は、ヒラリー陣営へのトップ献金者だ。こうした有力メディアは、「企業メディア」「エスタブリッシュメントメディア」とも呼ばれている。

市民ひとりひとりがメディアになれば

エスタブリッシュメントメディアに勝てる

実は今回の予備選では、各州で投票妨害、不正選挙が大量に報告されている。バーニーの出身地である ニューヨーク州ブルックリンでは、名前が投票者名簿から削除されていた126,000人が投票できなかったバーニーの名前が消されていた投票用紙の画像、自動投票機を使って何度バーニーの名前を押しても違う候補者に投票したことになってしまう動画など、市民グループが証拠を集めており、複数州ですでに訴訟が起 きている。

しかし民主主義にとって極めて重要なこの問題についても、大手メディアは取り上げず、「バーニーは選挙レースから引き下がってヒラリーを応援すべきだ」という論調だ。これでは「実際に起きていることではなく、それに平行して自分たちの筋書きを記事にしている」と批判されても仕方がないだろう。

マイケル・ムーアはBBCに出演して、「企業メディアはもうメインストリームではない。新しいメインストリームは、サンダースのエンジンである若者たちのメディアだ」と語った。また、RT Americaでニュース番組をもつトム・ハートマンは、「かつては新聞テレビに情報を頼らざるをえなかったが、今はその気になれば、動画や記事を検索して選挙候補者を自分で判断することができる。ネット上には噂やデマもあるが、同時に議論の場も豊富だ」と、視聴者にネットの活用を呼びかけた。

いま大手メディアは「トランプが大統領になったら怖いから、ヒラリーに投票しなくてはならない(「ヒラリーはトランプと同じくらい嫌いだから、投票しない」「バーニーが民主党候補にならなかったら、緑の党に投票する」というバーニー支持者は自分勝手)」と合唱し、それに同意する国民も多い。が、本当にそうなのだろうか。バーニーと支持者たちは、今回の選挙で生まれた政治革命運動を、ずっと続けていく所存だ。市民ひとりひとりがメディアとなって、大手メディアが報道しないことを伝えることも、その使命のひとつだ。

『リンククラブ・ニューズレター』(2016年夏号掲載)


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