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世界標準となった「シンガポール式算数」なぜ日本でメジャー化しないのか?

Global Press

シンガポール国立大学附属理数高等学校のオープンハウスで実験を披露する生徒たち

近年、TIMSS(国際数学・理科教育調査)やPISA(OECD生徒の学習到達度調査)といった国際的な学力調査で、理数系の成績が振るわない日本。一方、当地シンガポールは常に上位3位内をキープしており、特に小・中学生の高い算数力が世界から注目を集めている。

15~16歳の生徒を対象とする、「PISA 数学リテラシー」。日本は2000年の初回調査で見事1位だったが、2012年度の成績は上海1位、シンガポール2位、日本は7位であった(65カ国・地域中)。2011年のTIMSSをみると、小学4年生の算数の成績ではシンガポールが1位、日本は5位(38カ国・地域中)。ここでも日本は、1995年の初回調査3位から年々順位を下げてしまっている。

日本とは対照的に、算数の各種学力調査で好成績を収めているシンガポールだが、独自の算数カリキュラムが考案されたのは1982年と、学習メソッド開発の歴史はそう長くない。では、シンガポールの子供たちの算数力が急速に伸びた理由は何だろうか。

最大の理由は、メイド・イン・シンガポールの算数学習法「シンガポール式算数」にあるだろう。その特徴は、計算問題より文章題に重きをおいている点、そして、文章題を解く際に、できる限りバーモデルを使う点だ。

シンガポール式算数に関する参考書や問題集が数多く並ぶ書店

バーモデルとは、文章題の中で基準となる数をまず見極め、それを1ユニットとして、他の数との関連を図に表したもの。未知の数値を未知のまま視覚化して、取り扱いやすくする。日本では方程式を使わなければ「解けない」または「解かせない」問題も、バーモデルを使えば簡単に立式と解答を導き出すことができる。当地では、小学校1年生からバーモデルの使い方を学ぶようになり、その結果、小・中学生の算数の成績が急上昇した。バーモデルを中心とした独自の「シンガポール方式」が、高い学習効果を発揮したのである。

世界の教育関係者がシンガポール式算数に注目しないはずはない。いち早く自国の教育に取り入れようと、東南アジア諸国のみならず、欧米・中東各国を含む25カ国以上がシンガポールの小・中学校用の教科書を使って算数の授業を開始している。

米国では、従来の教科書で学習した生徒と、シンガポールの教科書を使った生徒の成績比較調査が行われた。結果は、後者の生徒のほうが明らかに点数が高かった。米国では現在、すでに国内2500校以上でシンガポール式算数を取り入れている。

イギリスでは、シンガポール式算数をベースに、慈善団体マスマティックス・マスタリーが「数学マスタープログラム」を開発。2013年から計265の小・中学校で、約6万人の生徒をこのプログラムで指導している。その結果、すべての学校で成績が向上し、学習進度も平均1カ月スピードアップした。現場の教師や教育関係者たちは、大きな手ごたえを感じているという。

一方、日本では一部の進学塾や算数教育に熱心な教師たちが、個々の指導現場でシンガポール式算数を取り入れている。しかし、他国と比べて普及率は低く、まだ少数派だ。日本の教育現場では、他国から優れたものをすぐに取り入れる柔軟性が欠けている気がしてならない。教育鎖国が未だ続いているのでは、という懸念さえ覚える。

いま世界では、どのような学習法が効果を上げ注目を集めているのか。既存の指導法をよりレベルアップさせるアイデアはないのか。シンガポールを筆頭に、理数系の成績が向上している他国の子供たちはどのように力をつけていったのか。これらの理由を明らかにした上で、世界の教育現場から学ぶべき点、取り入れる点はたくさんあるはずだ。

グローバル化が日本の教育現場でも声高に叫ばれる中、英語教育の早期開始や必修化など「教育のグローバル化=英語教育の強化」という考え方が主軸になっている。しかし、果たしてそれでよいのか。英語はコミュニケーションや学習のツールに過ぎず、「英語を使って何を学ぶのか」という点が見過ごされているような気がしてならない。

シンガポール式算数のみならず、日本の子供たちが本当に必要な教育・学習方法とは何か。教育の真のグローバル化について、私たち日本人が真剣に考えなければならない時が来ていると感じる。

シンガポール式算数に関する参考書や問題集が数多く並ぶ書店

(書き下ろし)


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