カナダに激震が走った。2016年11月8日。震源地アメリカ。この日世界を駆け巡ったトップニュースは、どこよりも早く、どこよりも強く隣国カナダを直撃した。
翌日からカナダ都市部では反対デモが起こった。この日からアメリカの動向がトップニュースとなった。政策の大転換や不透明なトランプ次期政権への不安だけではない何かがカナダ国民を揺さぶっている。
カナダとアメリカの関係はおそらく世界に類をみない。日米でもなく、米欧でもなく、EUとも違う。北米大陸を分断する9000キロの世界最長国境を挟んで、政治、経済、外交、防衛、文化、言語、歴史と、ありとあらゆる面で密接に関係している。隣人であり、友人であり、ライバルであり、同盟国だ。
外から見ればカナダが一方的に頼っているように見えるが実はそうでもない。特に政治的にはアメリカから一定の距離を置き、カナダは独自路線を歩んできた。
その象徴とも言えるのが、「多文化主義」と「権利と自由の憲章」。移民文化を奨励し、出身国や人種に関係なく等しく自由と権利が保障される。自由・公平・寛容を国の柱とし、高い教育水準の下、差別や排他的な姿勢に厳しい国民性を作り上げてきた。
その傾向は昨年10月総選挙で自由党が勝利し、ジャスティン・トルドー首相が誕生するとますます顕著になった。閉鎖的で、独裁的に傾いていたそれまでの保守党政権への不満もあり、トルドー首相誕生はカナダ国民にリベラルなカナダへの誇りを再認識させた。
首相の政策もそれに応えた。組閣では半数を女性閣僚とした。シリア難民を受け入れ、第1陣がカナダに到着した時には、首相自ら空港で出迎えた。自由貿易を推進し、保守党時代には消極的だった環境対策、国連への参加も再び積極的に関与すると公言した。
世界中が右に旋回しつつある中、それに相反するように、カナダは「国民が誇れるカナダ」として再出発した。そんな矢先の米大統領選の結果だった。カナダ国民が最も嫌悪感を抱く主張を繰り返す人物を、隣人であるアメリカ国民が大統領に選んだという事実は、想像以上にカナダを激しく揺さぶった。1カ月が経とうとしている今でも揺れは続いている。
最近、カナダ国内でも白人至上主義的思想から一部の特定マイノリティを攻撃する人々が現れた。カナダが最も嫌う事態が起こり始めている。
これからもトランプ的激震は続くことが予想される。カナダはこれからのアメリカにどのように向き合っていくのか。公平で寛容なカナダの国民性とリベラルの星のようなトルドー首相の政策が防波堤となるのか。カナダだからこそできるトランプ対応に注目だ。