一般的に魚の養殖には、餌として魚粉(魚を煮て脂と水を分離し乾燥させた粉)が使われている。だが、負荷が大きいため、今後は使用を削減する必要がある。植物性の餌の研究が日本でも進む中、スイスのベンチャー企業トゥエンティ・グリーン社が、国際特許を取得した植物性飼料の開発・販売に乗り出した。
(チューリヒ=岩澤 里美)
餌は生餌と魚粉、魚油、大豆油かす、エビ、ビタミンなどを混合したモイストペレット(MP)や、魚粉とビタミンなどを混ぜて固めたドライペレット(DP)が主流だが、世界的な需要の高まりに合わせて供給が増やせず、魚粉の価格が高騰している。これは養殖業者にとって死活問題だ。
トゥエンティ・グリーン社では、ローザンヌ工科大学、ジュネーブ大学との共同研究により、魚の腸内で植物性飼料の消化を促進しつつ、免疫力も高める微生物を確定。「プロバイオティクス飼料」を開発し、2015年10月に起業した。
トラウト(マス、サケ系)やスズキなどを使った実験では、この特殊な植物性飼料によって成長率が15%以上伸び、寄生虫による疾病負荷が25%も減った。
「養殖魚には、ワクチン(予防接種)や抗生物質などの水産用医薬品が大量に使われている場合が少なくない。それらを食べる人間の健康を考えると、プロバイオティクス植物性飼料を使うことは必須といえる」
こう話すのはダンカン・サザーランドCEOだ。オーストラリアで博士号を取得し、埼玉県和光市の理化学研究所で2年半の研究生活を送り、ローザンヌ工科大学でも研究を重ねた。
「動物飼料よりも環境負荷を低減でき、海洋保全にもつながる。だが、魚粉を食べるいわば肉食の養殖魚に植物性飼料を与えてもうまく消化できず、順調に育たない。私は魚のベジタリアン化について、研究を続けてきた」(サザーランドCEO)
プロバイオティクス飼料は魚だけでなく、甲殻類(エビ、カニ)、鶏や豚などほかの動物にも適用できるという。
ビジネスコンペで優勝
同社はすでに国内の数々のスタートアップのコンテストで入賞し、5月には、チューリヒ州銀行とテクノパーク・チューリヒ財団による「ZKB・パイオニアプライス・テクノパーク2017」で優勝を果たした。従来の常識を覆すアイデアを技術化したと評価され、賞金1千万円を獲得した。
同社は魚食の国、日本にも焦点を当てる。福岡の日本支社では、日本国内のクロマグロの研究機関や大手養殖飼料会社との交流を進めている。トゥエンティ・グリーン社の飼料が日本の養殖に貢献する日も近そうだ。
スタートアップのコンテストで優勝するなど注目を集めるサザーランドCEO(中央)ⓒStiftung TECHNOPARK Zürich