トランプ氏の大統領選勝利から一週間ちょっと、世間はいまだに興奮冷めやらぬ状態だが、メディアの論点は「何故なんだ!」から「これからどうなる?」に移っている。日米安保からTPP、日本車への関税まで、影響を受けそうな分野は多岐にわたる。TPPはやっぱり反故にされるのか?在日米軍への負担はどの程度増える?日本の自動車メーカーはどうなるのか?様々な予想が飛び交っているが、ここではちょっと地味ながら、人類の未来を左右するエコロジー問題にスポットを当ててみよう。トランプ新大統領のエコロジー政策はいかなるものか?
結論から言うと、トランプ新大統領はエコロジー政策を重要視していない。それどころか、アンチエコロジーとも言うべき思想の持ち主なのだ。
新大統領は地球温暖化問題を「似非科学」と切って捨てる。オバマ政権下のグリーンビジネスへの補助を「国家的な陰謀」とまで言い切る。舌鋒鋭い人物であることは周知の通りだが、ことエコに関しては、その辛辣さは何にも増して厳しい。
トランプ氏は、現在の異常気象の原因は人間による自然破壊だという考えを頭から否定している。その辺を氏の近著「THE TRUMP - 傷ついたアメリカ、最強の切り札(ワニブックス)」から拾ってみよう。
「米国史上最大の竜巻は1890年代に起きている。最大のハリケーンが起こったのは1860年代と1870年代だ。凶暴な気候変動は今に始まったことではないのだ。人類は過去に氷河期さえ経験している。これらが人間によって引き起こされたとは思えない。」
こういう思考の持ち主だから、オバマ大統領によるグリーン政策に対しては批判どころか暴言の嵐だ。以下は2011年に出版された「タフな米国を取り戻せ(筑摩書房)」から。
「(オバマ大統領は)米国経済の競争力や民間の雇用の創出は二の次にして、地球温暖化という似非科学と社会主義的経営を意図的に広めている。」
世界の常識である温暖化について、ここまで確信をもって否定できるのはある意味大したものである。当然、代替エネルギーの開発にもかなり否定的だ。
「(代替エネルギー開発の試みは)大きな誤りだ。そもそも再生可能エネルギーの開発は地球の気候変化は二酸化炭素の排出が原因だとする誤った動機から始まっていた。(中略)我々がやっていることは、大金を賭けて環境保護論者を喜ばせているだけということになる。」(タフな米国を取り戻せ)
代替エネルギーなど役立たずのインチキと言わんばかりだが、中でもトランプ氏が目の敵にしているのが風力発電。役に立たないどころか環境破壊の元凶だ、というのが氏の持論だ。著書の中で、風力発電は「度を越して非効率的な上、二酸化炭素の削減にはほとんど効果がない」というイギリスのシンクタンクの研究を紹介している。
風力発電に対する過剰な敵意の裏には、建設業者時代の怨恨があると見る向きもある。かつてトランプ氏がスコットランドの海岸沿いに建設したゴルフ場の海上に、イギリス政府が巨大な風力発電施設建設を計画したことがある。これに反発したトランプ氏は裁判を起こし、数年間争った。この事件が彼の代替エネルギー嫌いの原因なのかもしれない。
そんなトランプ氏が大好きなエネルギーは石油だ。何しろ二酸化炭素問題など大嘘と考えているのだから、石化燃料の使用にはまったく躊躇がない。イラクなどの国で米軍が防衛活動をしてやる代わりに石油を貰えば良い、という少々トンデモな提言までしている。そうすれば原油価格も下がるというのが氏の主張だ。
「石油の価格は1バレル20ドルくらいに下がるだろう。そうなれば米国経済はロックンロールだ」(タフな米国を取り戻せ)
いずれにしても、オバマ政権で盛り上がってきたエコロジー機運が一気に冷水を浴びせられるのは間違いない。株式市場は今後の影響を敏感に察知している。ソーラーパネル大手、ファーストソーラーはトランプ大統領が誕生した翌日の9日(現地時間)急激に下がりはじめ、6.5%まで下落した。風力発電タービンメーカー、ヴェスタスウインドシステムズは10%、ソーラーメーカーのサンパワーは実に18%の大暴落だった。一方、突如の暴騰が起こったのは米国最大の石炭会社ピーボディ―。経営悪化が伝えられる企業だが、当選翌日何と50%値上がりした。
トランプ氏は繰り返し、オバマ政権が提案したクリーンパワープランを白紙に戻すと明言している。こうなるとオバマ大統領が積み上げたエコのレガシーは根こそぎ消滅してしまう可能性がある。トランプ政権下での受難はTPPだけではなさそうだ
(書き下ろし)