バイエルン国立歌劇場の魅力
- Global Press
- 2018年7月15日
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バイエルン国立歌劇場が6年ぶりに来日した。現地ミュンヘンでは売り切れ公演も多く、会場前から「チケット求む」の紙を持って立っているオペラファンをよく目にする。アジアツアーで今シーズンを開けた当歌劇場の魅力を探ってみたい。
バイエルン地方の夏休みを短縮して、ドイツで最も勢いのあるピアニストの一人、イゴール・レヴィットをソリストに招き、台湾、韓国と回って来たオーケストラは、その間に舞台の準備やエキストラの稽古を徹底させていたオペラチームと日本で合流し、9月17日のコンサート後、記者会見が開かれた。(写真NBS様より)
【記者会見】
出席した多数のジャーナリストの第一目的は、インタビュー嫌いで有名な音楽監督キリル・ペトレンコの生の声を聞く事であっただろう。バッハラー総裁に守られながら、いつになく多くを語ったペトレンコの様子から、彼の日本に対する意気込みが感じられ、好感を与えた。他の臨席者のコメントと共に抜粋を紹介したい。
ぺトレンコ〜「初めての日本に感動している。 長い歴史のあるバイエルン国立歌劇場日本ツアーに自分も関われたのが嬉しい。当歌劇場が日常的に上演している3人の作曲家モーツァルト、ワーグナー、マーラーの作品で、第一級の歌手陣と共に、自分の任期中に日本に来られたのは幸せだ。」
ニコラウス・バッハラー総裁〜「日本の聴衆の、西洋音楽に対する造詣の深さは世界一だと思う。今回は丁度訪日の歴史が始まった頃の演出で今も愛されている《魔笛》と、一番新しいオペラである《タインホイザー》という、 新旧両面を披露できて嬉しい。何故ならば、歌劇場は博物館ではないので、古いだけの演出は必要ないと考えているからだ。」
クラウス・フロリアン・フォークト(タンホイザー役)〜毎回日本に来れるのを楽しみにしているが、今回はバイエルン歌劇場の歴史に刻まれるツアーに参加できるのが嬉しい。このプロダクションがこの役のデビューだったので、それをすぐに日本の観客に観てもらえて幸せだ 。」
アンネッテ・ダッシュ(エリーザベト役)〜初めてのエリーザベト役。日本に来るのは6回目だが、オペレッタなどで一緒になって盛り上げてくれる素晴らしい日本の観客に、今回は音楽的に繊細な部分を披露出来るのが嬉しい。」
エレナ・パンクラトヴァ(ヴェーヌス役)〜3回目の来日だが、日本人は「感動できる観客」だと思う。
マティアス・ゲルネ(ヴォルフラム役)〜来日回数は多いが、日本でオペラを歌うのは初めてなので嬉しい。
ぺトレンコ氏らに向けられた多くの質問から、バッハラー総裁が身を挺するように発したコメントをもって、半ば強引に記者会見は終了した。
【9月21、25、28日《タンホイザー》於NHKホール】
題名役のフォークト氏も「室内楽的なワーグナー」と称するペトレンコの音楽作りは繊細で優しく、序曲から観客を包み込む至福感は日本でも変わらなかったが、NHKホールの音響に多少苦しんでいた様子が感じられた。ミュンヘンでの初役の際は少々掠れ声で歌い始めたフォークト氏だったが、今は完全にこの役を掌握し、最初から最後まで声の透明感を保ち、主役の威厳を勝ち取っていた。そのために時折明る過ぎる響きを選ぶことには目を瞑りたい。
エリーザベト役に、現地でのアーニャ・ハルテロスの代わりにアンネッテ・ダッシュがクレジットされた時、軽めのレパートリーで世に出た彼女に不安を覚えたが、実際は立派に歌い切り、ハルテロスよりも温かいエリーザベトを演じていた。
ミュンヘンで聴いたクリスティアン・ゲルハーヘルのヴォルフラムは、ペトレンコの音楽作りと最高にマッチしていたため、来日キャストに名がなかったのが惜しまれたが、マティアス・ゲルネはそれを越える歌唱を聴かせて驚かされた。彼の声の響きは、特に領主ヘルマン役のゲオルグ・ゼッペンフェルト等の典型的ワーグナー歌手と並ぶとパワーがない上、声の艶も失われ、キャリアの終焉を思わずにはいられないのだが、彼の歌唱力はそれをカバーして余り在るものだった。特に夕星の歌等これ以上心のこもった歌い方は存在しないのではないだろうか。
ヴェーヌスは変わらず好調なエレナ・バンクラトヴァが安定した歌唱を聴かせたが、
カステッルッチの演出では性愛に溺れる究極の姿を表す肉塊に始終包まれたまま動けない。「美の神」を人間がリアルに演じるのは至難の業なので、特にこの配役では賢い解決法だったかもしれない。そのように細かな部分では賛否両論分かれるカステッルッチの演出だが、全体を包む幻想的な美は格別だ。昨年別の歌劇場で会った際に《タンホイザー》で日本に行かれることを喜んでいた氏は、この舞台美術のコンセプトを日本に捧げてくれたような気がしてならないので、実際に尋ねてみた。(日本公演での写真が必要ならばNBS様へお願いします。現地のものでよければ、ご一報下さい)
【ロメオ・カステッルッチ インタヴュー】(写真)
「仰る通り、日本の美学とその偉大な図像学は私の《タンホイザー》のコンセプトの焦点の1つです。ワーグナーの《タンホイザー》の中にはアジア的要求が多く含まれていると感じます。例えば歌合戦における騎士道の掟などは、そのようなアジア的傾向で表現したかったものです。
私が深く愛する日本で自分の演出を披露できるのは、毎回とても名誉なことです。限りなく素晴らしい日本文化と日本の伝統芸能には感動させられるからです。こうして今回の《タンホイザー》の日本的コンセプトも生まれたのです。」
やはりカステッルッチの《タンホイザー》は日本へのラブレターでもあったのだ。
以下全文掲載リンク:
ハンナ 2017年11月号掲載 一部抜粋
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