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アマゾン第2本社がニューヨークに決定し2万5千人の雇用を創出。それでも地元民が手放しで喜べないワケ


第2本社が入居予定のシティグループビル(左)(c) Kasumi Abe

アマゾン(Amazon.com)は11月13日、第2本社(以下HQ2)をニューヨークのクイーンズ区ロングアイランドシティ(以下L.I.C.)とバージニア州アーリントンに置くことを発表した。

昨年より、HQ2の候補地として238の都市が名乗りを上げており、同社は今年1月、ロサンゼルス、マイアミ、ワシントンD.C.、カナダのトロントなど、20都市を最終候補地として選定を進めていた。

どの都市になるのか大きな注目を集めていたが、最終的に上記2都市が選ばれた形となった。

クイーンズのL.I.C.ってどんな街?

アマゾンのHQ2ができるL.I.C.は、クイーンズ(マンハッタンからイースト川を隔てた対岸の区)の西側に位置する。地下鉄7番線に乗ればマンハッタンの中心地、グランドセントラル駅まで5分、タイムズスクエアまで10分で行ける至便さが魅力だ。

このエリアは長らく住居エリアとインダストリアルエリアに分かれており、タクシーやフードトラックの車庫、車修理工場、倉庫や無数の線路などが今でも数多くある。

L.I.C.は近年再開発が進み、ビジネスマンや若いファミリー層が好んで移り住んでいる。おしゃれなホテルや飲食店、ブルワリーなども次々にオープン。「次のブルックリン」として、5~6年ほど前から少しずつ注目を浴びていた。

私にとってL.I.C.は、学生時代に毎日通っていたコミュニティカレッジがある場所だ。

当時この辺は、MoMAの分館(PS1)や野口博物館、当時たったの1棟の高層ビル「シティグループセンター」(Citi Group)、2014年に取り壊されたビルの落書き「ファイブポインツ」(5 Pointz)などが街のシンボルだった。

店はひなびたダイナーやデリがあるだけで、日が暮れるとあまり近づきたくないと思ったのを覚えている。

それが今はどうだろう。久しぶりにL.I.C.を歩いてみたら、見慣れた景色が以前とは「まったく」異なっていた。

高架線を走る7番線の車窓から見える殺風景な景色は、ガラス張りの新しい高層ビルと建設中のビルに取って代わった。陽が落ちビルの明かりが灯る時間は、まるで東京にいるかのように錯覚するほどだ。

参照: 

クイーンズのL.I.C.の今昔の様子がわかる『NYタイムズ』のビデオ

  • クイーンズのL.I.C.の位置がわかる地図(0:13あたり)

  • HQ2オフィスが置かれる2箇所の予定地(0:24と0:30あたり)

  • 長らくL.I.C.では、1990年建設の50階建てCiti Group センター(正式名One Court Square)が唯一の高層ビルだった(0:35と0:37あたり)

  • 高層ビルが乱立したL.I.C.の現在の風景(0:41あたり)

アマゾンによる経済波及効果と人々の声

NBCニュースによると、アマゾンはこれら2都市に50億ドル(約5700億円)を投じ、2万5千人から4万人の雇用を創出し、従業員の平均給料は15万ドル(約1,700万円)以上になる見込みだ。

HQ2の新設について、この地に根を張っている人々はどう思っているのか?

2006年の創業以来、ニューヨークで日本の弁当のおいしさと文化を紹介してきたBentOn(ベントオン)の社長、古川徹(とおる)さんに話を聞いた。同社は弁当の製造工場兼本社を2015年からL.I.C.に置いている。

「ちょうどアマゾンの発表の翌日にL.I.C.パートナーシップ(地域活性化グループ)の会合が開かれましたが、誘致活動をずっとしていたので皆大喜びしていました。この地はアマゾンの社員にとって、JFKとラガーディアという2つの空港がわりと近いというのも大きな魅力ですし、私もHQ2がやって来るのは大賛成です。ヘルシーなファストカジュアルフードとして弁当は当地で人気なので、新社屋のランチでぜひ提供できればうれしいです」

おおむね歓迎ムードではあるが、住民が皆手放しで喜んでいるわけではなさそうだ。

NBCニュースによれば、コンド(マンション)が乱立したL.I.C.の平均不動産価格はすでに80万ドル(約9千万円)に達しており、1ミリオンドル(約1億1,200万円)超えも珍しくないという。HQ2の進出によって今後地価はさらに上がり続け、住みにくくなるのではないかという懸念が地元住民の間で広がっている。

実際に、アマゾンの発表の翌日、HQ2の新設を反対する住民らによる抗議集会が開かれた。

  • 公営住宅団地の近くに、大企業が来るメリットは?

  • お湯が出ない家もあるのだから行政はアマゾンより住居や教育機関に投資するべきでは?

  • そもそも高給取りのホワイトカラー2万5千人がこの街に住む必要があるのか?

などという声が上がった。

先の古川さんも、反対派の意見があることも理解できるという。

「L.I.C.パートナーシップにも、街が不便になるのではないか、交通渋滞が悪化するのではないか、自分がここから追い出されてしまうのではないかなどという心配の声が寄せられています。確かにコンドが次々に建設されているわりには、インフラが整っておらず受け皿がない状態です。飲食店もスーパーも学校も圧倒的に少ない。スタバが数ヵ月前にやっと1軒オープンしたぐらいですから。アマゾンは10年かけてインフラに投資すると発表しているので、住みやすい街が今後作られていくことを期待しています」

「住みにくさ」で言うと、私もアマゾンの発表の翌日、しかもラッシュアワー時に、偶然にも地下鉄7番線に乗る機会があり、痛切に感じたことがある。

ホリデーパーティーに行くため、この時期は毎年必ずその時間帯に7番線に乗るのだが、昨年と比べ明らかに何かが違った。

東京ほどの満員電車は渡米16年で1度も経験したことがなかったが、その日初めて「押し合いへし合いで、息もできないくらいの混み具合」を体験した。

L.I.C.の「住みにくさ」は、もうすでにはじまっているのかもしれない。

都市の適正なエコシステムに必要な4つの軸

IT企業が都市に参入することによる経済波及効果について、IT事情やコミュニティーに詳しい米ライジング・スタートアップス(Rising Startups)社代表、奥西正人(まさひと)さんに話を聞いた。

「雇用が増えるのは経済的によいことですが、シリコンバレーやサンフランシスコのように人が増え過ぎると、不動産の高騰や環境汚染などの問題が出てきます。特にサンフランシスコ市内は家賃が上がりすぎて富裕層以外が住みにくく、ホームレスが増えている状態です」と奥西さん。

無料ランチを用意する大企業の周辺では、地元店が困るケースも多い(シリコンバレーは行政により、無料ランチを規制する予定もある)。

ニューヨークは物価や家賃が東京の約2倍といわれているが、アマゾンの参入でさらに高くなり、昔からの住民が退居を強いられたり、IT系の人ばかりが増えアート系の人が住みづらい街になってしまう懸念も。

「行政、教育機関、投資家、起業家の4つの軸が、都市の適正なエコシステムに必要です。それらがバランスよく存在し稼働してくことが求められていくと思います」(奥西さん)

アマゾンがNYCの次の時代の鍵を握る

アマゾンが創業してから24年、今では世界一のECサイトに大成長した。ボイスコマースもリードし、エコー(Echo)の販路を世界中に拡大している。

また、大手スーパーチェーン「ホールフーズマーケット」(Whole Foods Market)を買収し、実店舗「アマゾン・ブックス」(Amazon Books)や「アマゾン・フォースター」(Amazon 4-star)も次々にオープンしたり、シアーズ(Sears)やコールズ(Kohl's)とも提携。市内初となる無人コンビニエンスストア「アマゾン・ゴー」(Amazon Go)も、グラウンドゼロ近くに出店する計画がある。

ニューヨークは開拓者や起業家たちの力で、常に変貌を遂げながらここまで成長してきた。HQ2が吉と出るか凶と出るか。次の時代のこの街の行く末は、アマゾンが大きな鍵を握っている。


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