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  • 田嶋 麻里江

【世界から】シンガポール、中学校に人気レストラン?


<画像・計3点>  ・明るく広々としたアート・レストランの店内。テーブル同士の距離感も十分に保たれている。.JPG  ・筆者がオーダーしたサーモンのソテー。焼き具合も丁度良く、美味しく頂いた。.JPG  ・アート・レストランのあるAPSの校庭と校舎

「ユニークなレストランがあるの。ランチに行かない?」シンガポール人の友人に誘われ出かけた先は、なんと地元の学校。確か、ここは中学校だったはず。友人曰く、そのレストランは校内にあるという。

人気レストランが、なぜ学校内に? 校内を案内板に従って進むと、すぐにレストランのエントランスを見つけることができた。笑顔で私たちを出迎えてくれたのは男子中学生らしき、あどけなさの残るスタッフ。「予約はされていますか」と聞かれたので、していないと答えると、手際よく予約表を確認し空いているテーブルに案内してくれた。 店内を見回すと100席ほどあり、かなり広い。照明や調度品もお洒落で、さながら高級店のようだ。優雅に食事を楽しむ老紳士やご婦人方も多く、平日にもかかわらず空きテーブルにはすべて「予約済み」の札。どうやら人気のレストランらしい。 渡されたメニューによると、ランチは13.50シンガポールドル(約1,100円)のセットのみ。スープ、メイン、デザート、コーヒーまたは紅茶が付くとのことだった。メインは4種から選べる。「世界一生活費の高い都市」として知られる当地としては良心的な価格設定と言えるだろう。 メニューを見ていくと、一番下に「トレーニング中の生徒に対する皆さまの恩寵と忍耐に感謝いたします」と記されていることに気付いた。ホールスタッフに確認すると「この店は、僕たち生徒が運営しているんです」と答えてくれた。しかしながら、なぜ校内にレストランがあり、生徒たちが働いているのだろうか。 世界トップの学力を誇る星の子どもたち 近年、PISAやTIMSSといった国際的な学習調査で上位を独占し続けるシンガポール。意外にも、義務教育制度が施行されたのは2003年で小学校の6年間のみ。しかし、PSLEと呼ばれる全国統一の小学校卒業試験で、合格基準に達しなければ卒業が認められず、義務教育修了にも高いハードルがある。因みに昨年の合格率は98.4%だった。 無事小学校を卒業した子どもたちも、PSLEの点数によって進学する中学校のコースが異なる。成績上位6割強が4年制、それ以外の3割強が5年制に振り分けられるのである。 中学校か、特別学校か

一方、不合格の子どもたちは留年し、翌年再受験する。それでも合格できない場合は、国内に2校ある特別学校へ進むことになる。最初から中学ではなく特別学校への進学を希望する生徒も、在籍している小学校長の推薦があれば入学が可能だ。

特別学校では、生徒たちが卒業後に即戦力として働けるように、4年制の職業訓練校として専門的な各種技術を指導している。このアート・レストランを運営するアサンプション・パースウェイ・スクール(以下、APS)も特別学校。製菓・製パン、調理、接客サービスなど計6つのコースがあり、4年間のプログラム修了後、学び足りない学生は更に併設の2年制アカデミーに進むことができる。

生徒が運営するレストランの意義

製菓・製パン、調理、接客サービス各コースの生徒たちが授業で学んだ内容を実践するため、2011年にオープンしたこのアート・レストラン。厨房やホールには先生たちが常駐し、生徒たちをサポートしている。

特にユニークな取組みは、不定期開催のイベント「サタデー・ディナー」。国内外で活躍するシェフたちを招き、生徒も一緒になって一般客に対し料理を振る舞う。腕利きのシェフたちと交流し、テクニックや知識を直に学ぶことができる貴重な学習体験と言えるだろう。

兎にも角にも大満足だった今日のランチ。友人がオーダーしたパスタも、私の魚料理も、そしてデザートも、どれも街中にあるレストランに勝るとも劣らない出来栄えだった。 会計後、レジ横にあるケーキとパンのテイクアウトコーナーに気付いた。つい買いたくなる賢いレイアウトだ。また、会員制度もあり、割引やイベントの優先招待権などの特典があるという。このようなプロモーションも、生徒からの発案が元となり実施されるとのこと。調理や接客スキルだけでなく店舗運営や管理能力も自然と身に付いていくトレーニング・レストランだ。 教育政策は「柔軟性と瞬発力」 天然資源に乏しいシンガポールは「人材こそ最大の資源」をモットーとして、教育政策に心血を注いできた。この国のエリート教育ばかりにスポットが当てられがちだが、実際の教育現場では、机に向かうスタイルの学びだけなく、子どもたちの特性を見極め、個々のニーズに応じた学びを惜しみなく提供している。国家主導で教育環境づくりに取り組み、効果が見込めれば斬新な手法も躊躇なく取り入れる。一方、結果に結びつかない場合は、即座に中止する。 国家予算に占める教育費の割合が防衛費に次いで第2位というシンガポールの「柔軟性と瞬発力」。この国の教育に対する冷静なる情熱を再確認できたランチタイムだった。(シンガポール在住ジャーナリスト田嶋麻里江=共同通信特約)

明るく広々としたアート・レストランの店内。テーブル同士の距離感も十分に保たれている

筆者がオーダーしたサーモンのソテー。焼き具合も丁度良く、美味しく頂いた


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