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  • 岩下 慶一

死後71年の論争、『アンネの日記』は誰のもの?―著作権をめぐるEUの規程と「アンネ基金」の主張が衝突―


©paulosilas90 「アンネの日記」

一人の少女の瑞々しい感性を綴ると同時に、20世紀最大の蛮行であるナチスの恐怖を記録した稀有な書物『アンネの日記』。1947年の出版以来、世界中で3000万部以上出版されたこの世界的ベストセラーが、2016年になって再び物議を醸している。著作権の有効性をめぐり論争が起きているのだ。

アンネ・フランクが45年にドイツのベルゲン・ベルゼン強制収容所で亡くなってから今年で71年。欧州連合(EU)では著作権の保護期間を作者の死後70年間としており、EUの規定に照らせば『アンネの日記』は今年から著作権が消失する。同書が著作権フリーになったと判断したフランス人研究者オリヴィエ・アーツスカイド氏は今年1月1日、全文をインターネットで公開した。フランスの左派政党・緑の党の議員イザベル・アタールも公開に踏み切った。これに対し、著作権を保有するアンネ・フランク基金(AFF、本部はスイス)は、権利はいまだ有効として両者に強い警告を行なった。

EUの著作権規定に従って考えると、すでにパブリックドメイン(公有)に帰している本の著作権がいまだに有効という主張の根拠は何なのか。それは『アンネの日記』の複雑な出版過程に起因する。アンネ・フランクは日記そのものと、それを自ら改訂した原稿の二つを残しており、彼女の死後、父親のオットー・フランクがその二つを合体させ編集を加えた後に世に出した。つまり、見方によってはオットーにも著作権があると考えられる。AFFのこの主張に立つと、オットーが世を去った80年から起算して2050年まで著作権が有効となり、現時点ではAFFの許可なしには発表できないことになる。

だがこの主張は、同書がアンネ自身による純粋な創作だとの印象を弱めてしまうことにもなりかねない。前出のアタール議員はこの点を突き、AFFの振る舞いは『アンネの日記』の尊厳を損ねるものだと非難している。過去何度となく繰り返されてきた真贋論争の影響もあってか、AFFはウェブサイトで「日記の作者は間違いなくアンネ・フランク」と明記しているが、そうなるとオットーが著作権者の一人だとの主張と食い違う印象も否めない。

『アンネの日記』は誰のものか? 著作権論争は置いても、きな臭さを増してきた21世紀に万人が共有すべき文化遺産であることは間違いない。

『週刊金曜日』 1月22日 1072号から転載


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