top of page
検索
  • 佐々木 順子

もう黙っていられない! アメリカ市民のレジスタンス


©mathiaswasik トランプタワー前で抗議するマイケル・ムーア氏

トランプ新政権が誕生して3カ月が経った。大統領就任直後、次々に発令された大統領令に続いて国民を待っていたのは、議会の過半数をとった共和党が提出する予算案や法案だ。その内容は環境、教育、医療、人権等において国民を守るものとはほど遠く、トランプと共和党に投票したことを悔いる声も聞かれるようになった。この国はどうなってしまうのかという不安に苛まれながらも、多くの人が「Resist(抵抗せよ)」を合言葉に立ち上がり、運動に参加し始めた。そんなアメリカ市民の奮闘を伝える。

国民の怒りを買ったオバマケア代替法案

法人税を最高35%から15%に引き下げ。軍事費を10%増加。環境保護庁予算を31%削減。教育バウチャー制度と学校民営化を推進。イスラム圏出身者の入国禁止。トランプ/共和党の大胆な政策の中でも、この春最大の争点となったのがオバマケア代替法案だ。

代替案が施行されると、低所得層の医療保険料は年収の半額にまで達し、保険加入は不可能になる。持病のある者や大学生の子供も加入が困難になる。2300万人が保険を失い、年間36,000人が亡くなる概算で、殺人に等しいと批判された。

「オバマケアは失敗。もっといいものと取り替える」「罪を犯し雇用を奪う不法移民を追い出す」「気候変動は中国のでっち上げ。炭鉱を復興させて雇用を取り戻す」という言葉を信じてトランプに投票したものの、治療も薬も失いかねない現実に「騙された」と呆然とする人たちの姿が報道されるようになった。

結局この法案は採決前に撤回された。「まだ内容が生温い」という議員と、自分の選挙区で無保険者が増大することを恐れた議員の票を得られなかったからだ。特に後者は、連日市民からの様々な抗議行動にさらされていた。

議員への電話かけ作戦

トランプの大統領当選を警告していたマイケル・ムーア監督は、トランプ政権の時代をサバイバルするための電話作戦を指南している。その最初の成功例となったのが、米国議会倫理局(議会の監視機関)の閉鎖計画の取りやめだ。朝8時、マイケル・ムーア監督が560万人のSNSフォロワーに「今すぐ (202) 225-3121に電話して抗議しよう。自分の郵便番号を言えば、選挙区の議員に繋いでくれるぞ」と呼びかけた。殺到した電話で回線がパンクし、昼には閉鎖が取りやめられることになった。ムーアは「朝起きてコーヒーを入れてイヌを散歩させたら、議会に電話する。所要時間たった2分!」を日課にしようと言っている。

タウンホール・ミーティングで議員に直訴

2月9日の寒い夜、ユタ州ソルトレイクシティで共和党のチャフェツ国会議員がタウンホール・ミーティング(市民との対話集会)を開いたところ、州各地から市民が詰めかけた。グランドキャニオンをはじめとする自然資産を持つユタ州民は、国立公園を売却する連邦政府の方針に憤慨していた。高校の講堂に集まった1000人が「Explain yourself(説明責任を果たせ)」と唱え、議員の回答をかき消すほどだった。屋外では中に入れなかった1500人が「Do your job(やるべき仕事をやれ)」「America is better than this(アメリカはこんな国じゃない)」とコールを繰り返していた。

小さな町の集会の動画や記事が、参加者や記者によって直ちにSNSに投稿され、拡散とともに全国の自治体を活気づける。集会や議会公聴会は、どこもかつてない盛況だ。共和党議員は集会をキャンセルしたり、議員を警察に護衛させたりしてセキュリティを強化している有様だという。

正しいことをする専門家や団体を支える

1月、トランプがイスラム圏7カ国の国民入国禁止の大統領令を発令し、永住権やビザの保持者までが空港で拘束される事態となった。この時、各地の国際空港に抗議者が集まったが、その中に床に座り込んでノートパソコンで作業する人たちの姿があった。彼らは入国拒否された人たちを助けるために駆けつけた、ボランティアの弁護士たちだ。歌手のシーアらが米自由人権協会(弁護士団体)への寄付を呼びかけたところ、2日間で数十万人から2400万ドルが集まった。年間寄付額の6倍に及ぶという。科学者、医師、教師などの専門家団体や様々なNGOも、トランプと共和党の政策に反対声明をあげ、活動している。

SNSで運動を励ますメンターたち

市民がこうした活動を持続していくためには、確実な情報や深い知見、暖かい励ましをくれるメンターが必要だ。その代表が、暴走する資本主義に警鐘を鳴らしてきた経済学者、ロバート・ライシュ(『最後の資本主義』東洋経済新報社)だ。Facebookで『レジスタンス・レポート』を平日の毎晩ライブ配信し、5〜20万人が視聴している。その日の政府の動きや新しい法案について解説し、社会にどのような影響が出るか、それを防ぐためにどのように行動すべきかを、15分ほど語りかける。

もう一人は、大統領にこそならなかったが全米一人気のある政治家、バーニー・サンダースだ。トランプ/共和党の政策を真っ向から批判し、進歩的な法案を提出し続ける貴重な議員として支持を集めている。2016年8月にサンダースがスタートさせた‘Our Revolution(私たちの政治革命=企業献金やロビー活動に左右される政治を変革する)’運動は継続中で、いくつものローカルグループを派生させている。

2018年の中間選挙を目指せ

国会の過半数を共和党に与えてしまったことを反省した市民たちは、2018年の中間選挙で巻き返しを図るべく、備え始めている。議会での投票歴を監視し、例えば「この法案に投票した議員は必ず落とすように」と情報を共有している。

政治を志す若者も増えてきた。「革命は常にボトムアップで起きる」を合言葉に、自治体の選挙に確実な変化が起きている。例えば従来保守的だったニューメキシコ州では、2月の教育委員会選挙で投票率が2倍となり、当選者の5〜6割を進歩派候補が占めた。全米各地で今年予定されている市議会や市長選挙に向けて、進歩派の候補が続々と擁立され、躍進が見込まれている。

アメリカには、グラスルーツの努力によって市民が結束し、労働者の権利、女性参政権や公民権を獲得してきた歴史がある。サンダースはこれまでとは違ったやり方で市民が力をあわせて政治に関わる必要性を説き、「諦めるという選択肢はない」と言い切る。皮肉ではあるが、最悪の大統領が生まれたことが、アメリカの民主主義の底力を覚醒させつつある。 『リンククラブ・ニューズレター』掲載


閲覧数:26回0件のコメント
bottom of page